SNSが「やめられない」年と、注意のゆらぎ — 1万人超を5年追った研究から
📄 Problematic Social Media Use and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Symptoms in Adolescents
✍️ Nagata, JM, Otmar, CD, Nayak, S, Li, EJ, Ramappa, S, Ganson, KT, Lavender, JM, Testa, A, He, J, Christakis, DA, Baker, FC
📅 論文公開: 2026年
SNSが「やめられない」年の翌年は、注意のゆらぎがやや増えやすい
- 1 約1万1千人の子を5年追跡し、SNSの使い方と注意の様子を調べました
- 2 やめられない使い方が増えた翌年、不注意や多動がやや増えました
- 3 逆向きの関連もあり、どちらが原因かは決めつけられません
論文プロフィール
- 著者 / 発表年 / 掲載誌: Nagata JM ら(2026年)/JAMA Network Open
- 調査対象: 米国21地点で9〜10歳のときに登録された子どもたち(ABCD Study)。分析対象は11,286人、2年目時点の平均年齢は12.1歳、うち52.4%が男子
- 調査内容: 5年間・年1回の調査で、子ども自身が答える「SNSがやめにくい状態」と、保護者が答える「不注意・落ち着きのなさ」の変化を追い、どちらが先に動くのかを検討
エディターズ・ノート
「スマホを見る時間が長いから集中できないのでは」という心配は、多くのご家庭で聞かれます。けれどこれまでの研究の多くは、ある一時点を切り取った調査にとどまっていました。同じ子を5年間追いかけ、「その子自身の中での変化」に絞って見た本研究は、この心配を落ち着いて考え直すための手がかりになると考え、取り上げます。
実験デザイン
対象は11,286人。9〜10歳で登録された大規模コホートを、2年目から6年目まで年1回ずつ調べた 縦断研究 縦断研究 同一の参加者を長期間にわたって追跡調査する研究デザイン。発達的変化の因果関係を検討できる。 です。
測定されたのは次の2つです。
- SNSの問題的な使い方(PSMU): 「やめようと思ってもやめられない」「使えないとイライラする」といった、時間の長さではなくコントロールのしにくさを子ども自身が答えるもの
- 不注意・落ち着きのなさ: 保護者が回答するチェックリストの該当項目
分析には、もともとの個人差(もとから活発な子、もとからSNSが好きな子といった安定した違い)を切り分け、同じ子の中での年ごとの上下だけを取り出す手法が使われました。その結果、いつもより「やめにくさ」が強かった年の翌年に、不注意や落ち着きのなさがやや増える傾向が見られました。4年目→5年目、5年目→6年目の2つの区間で同じ向きの関連が確認されています。
逆向き、つまり不注意や落ち着きのなさが強かった年の翌年にSNSの「やめにくさ」が増える関連も見られましたが、こちらはより小さく、確認できた区間も1つだけでした。また、この関連は女子より男子でやや強い傾向がありました。
🔍 なぜ「その子自身の中での変化」を見るのか
ある年に「SNSをやめにくい子ほど、不注意が多い」と分かっても、それは もともと そういう気質の子が両方に当てはまりやすいだけかもしれません。
この研究の手法は、その子の平均的な傾向を基準線として差し引き、「その子にとっていつもより多かった年」だけを取り出します。だから、他の子との比較ではなく、その子自身の変化を追うことができます。ご家庭でも、他のお子さんと比べるより「先月のこの子」と比べるほうが、実は多くのことが見えてくるかもしれません。
🔍 この研究の限界(大切な注意点)
- 関連はとても小さい: 集団全体で見たときの結びつきの強さは小さく、著者ら自身も「population-based associations may be small」と述べています。個々のお子さんの将来を予測するものではありません。
- 診断の話ではない: 測られたのは保護者が答えるチェックリスト上の「症状の程度」であり、医学的な診断ではありません。この研究から「SNSでADHDになる」とは言えません。
- 原因は特定できていない: 逆向きの関連も見つかっており、両者が互いに影響し合っている可能性、あるいは睡眠不足など第三の要因が両方に効いている可能性も残ります。
古典知見との接続
エリクソンは、思春期を「自分は何者か」を探し、確かめていく時期として描きました。SNSはまさにその探索の舞台になっています。友だちの反応、自分の投稿への評価 — そこには、承認を求める思春期のごく自然な心の動きがあります。
一方で、こうした場は 実行機能 実行機能 目標志向的な行動を制御する認知プロセスの総称。抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性を含む。 (やりたい気持ちを一度止めて、今やるべきことに戻る力)にとっては、かなり手ごわい相手でもあります。この力は思春期を通してゆっくり育っていく途中で、まだ工事中です。探索したい心と、まだ育ちきらないブレーキが同時にある時期に、いつでも手の届く刺激が置かれている — この研究が捉えたのは、その重なりだったのかもしれません。
つまり「意志が弱い」のではなく、発達の途中にある力に対して、環境の引力が強い。そう捉え直すと、責める以外の関わり方が見えてきます。
🔍 家庭で見えるかもしれないサイン
この研究が測ったのは「時間の長さ」ではなく「コントロールのしにくさ」でした。ご家庭でも、時間より次のような様子のほうが手がかりになるかもしれません。
- やめようと決めていたのに、やめられなかったあとの様子
- 使えなかったときの、そわそわした感じや不機嫌さ
- 宿題や会話の途中で、気持ちがそちらに引っ張られる頻度
ただし、これらは誰にでも起こることです。「あるかないか」ではなく「前より増えているか」という見方のほうが、責めずに気づけます。
読後感
この研究は、時間の長さではなく「やめようとしたときの、その子の様子」に目を向けました。それは数字にしにくく、そばにいる人にしか見えないものです。
そして、その見えにくい変化に気づけるのは、比べる相手が他の誰かではなく「少し前のその子」であるときだけなのかもしれません。
最近、お子さんが何かに夢中になったあと、どんな顔で戻ってきましたか。