子育て論文研究室
発達心理学

「1日の動き・座る・寝る」をすべて満たす幼児はわずか12% — エクアドル発の大規模国際調査が示す幼児期の運動行動の現在地

📄 International Study of Movement Behaviours in the Early Years (SUNRISE): A Pilot Study From Ecuador.

✍️ López-Gil, JF., Cisneros-Vásquez, E., Montenegro-Espinosa, JA., Miño, C., Quiroz-Cárdenas, F., Celi-Lalama, D., Soria-Vizcaino, AL., Royo, JMP., Yáñez-Sepúlveda, R., Olivares-Arancibia, J., Gutiérrez-Espinoza, H., Okely, AD.

📅 論文公開: 2026年

3つのポイント

  1. 1

    WHO が推奨する「身体活動・座位行動・睡眠」の3つすべてを満たしていた3〜4歳児は、わずか11.8%でした。

  2. 2

    男児は身体活動の基準達成率が高く、都市部の子どもはスクリーンタイムの基準達成率がやや高いなど、性別や居住地域による違いが見られました。

  3. 3

    この研究は国際共同プロジェクト(SUNRISE)の一環であり、幼児期から「動く・座る・寝る」の24時間全体をバランスよく見る視点の重要性を示しています。

論文プロフィール

  • 著者: López-Gil, JF. ほか12名(エクアドル・スペイン・チリ・オーストラリアの国際研究チーム)
  • 発表年: 2026年 / Child: Care, Health and Development 掲載
  • 調査対象: エクアドル・キト市の幼稚園に通う3〜4歳の子ども108名
  • 調査内容: WHO が定めた24時間運動行動ガイドライン(身体活動・座位行動・睡眠の3領域)の達成率を加速度計で客観測定し、粗大運動・微細運動スキルおよび 実行機能 (目標に向かって行動をコントロールする力)との関連を調査

エディターズ・ノート

「運動が大事」と漠然と感じていても、「1日のなかでどれくらい動いて、どれくらい座って、どれくらい眠れば十分なのか」を具体的に把握しているご家族は少ないのではないでしょうか。この研究は、子どもの1日を「動く・座る・寝る」の3つのバランスとして丸ごと捉え、国際的な基準と照らし合わせたものです。結果は「ほとんどの子が基準を満たしていない」という少し驚く内容ですが、だからこそ、日々のちょっとした観察が力を持つ——そう考えて本論文を選びました。

実験デザイン

調査の枠組み

この研究は、世界40か国以上が参加する国際共同プロジェクト SUNRISE(International Study of Movement Behaviours in the Early Years) のエクアドル・パイロット版です。2024年にキト市の幼稚園から108名の3〜4歳児が参加しました。

WHO 24時間運動行動ガイドラインとは

WHO は3〜4歳の子どもに対して、1日の過ごし方について以下の3つを推奨しています。

  • 身体活動: 1日あたり180分以上の身体活動(うち60分以上は中〜高強度)
  • 座位行動(スクリーンタイム): 1日あたり1時間以内の座ったままの画面視聴
  • 睡眠: 1日あたり10〜13時間の質の良い睡眠

この研究では、子どもの腰に装着する加速度計(ActiGraph wGT3x-BT)を使い、客観的にこれらの行動を7日間測定しました。さらに、粗大運動(跳ぶ・投げるなど)・微細運動(積み木を積む・線をなぞるなど)のスキル評価と、Early Years Toolbox による実行機能の評価も行っています。

主な結果

WHO 24時間運動行動ガイドライン達成数の分布(論文報告値) 0 8 16 23 31 39 子どもの割合(%) 11.8 3つすべて達成 33.3 2つ達成 38.8 1つ達成 16.1 0(未達成)
WHO 24時間運動行動ガイドライン達成数の分布(論文報告値)
項目 子どもの割合(%)
3つすべて達成 11.8
2つ達成 33.3
1つ達成 38.8
0(未達成) 16.1
WHO 24時間運動行動ガイドライン達成数の分布(論文報告値)
  • 3つすべてを満たした子どもは11.8% にとどまりました
  • 逆に、16.1%はどの基準も満たしていません でした
  • 男児は女児に比べて身体活動のガイドライン達成率が高い傾向がありました
  • 都市部と農村部を比較すると、都市部の子どもはスクリーンタイムの基準をやや満たしやすい傾向が見られました
🔍 測定の信頼性と研究の限界

加速度計による測定は、子どもや保護者の記憶に頼るアンケート調査と異なり、客観的で信頼性が高い方法です。ただし、いくつかの注意点があります。

  • 加速度計は水中活動(プールなど)を計測できないため、水遊びの多い子どもの身体活動は過小評価される可能性があります
  • スクリーンタイムは保護者への質問紙で測定されており、加速度計の客観データとは測定手法が異なります
  • パイロット研究であるため108名というサンプルサイズは限定的で、エクアドル全体の幼児を代表するものではありません
  • 86.1%の子どもが1日以上の有効データを、75.9%が3日以上の有効データを提供しており、この年齢での加速度計調査の実施可能性は確認されました

プロトコルの実行可能性

パイロット研究としてのもう一つの重要な結果は、測定の実行可能性が高かったことです。身体測定・実行機能評価・運動スキル評価のすべてで100%の完遂率を達成し、加速度計についても75.9%の子どもが3日以上の有効データを提供しました。これは、3〜4歳という幼い年齢でもこの手法が十分に機能することを示しています。

古典知見との接続

ピアジェの感覚運動期と前操作期

シェマ(外の世界を理解するための心のフレームワーク) の理論を築いたピアジェは、子どもが世界を理解する最初のステップとして「身体を動かし、五感で感じる」ことを重視しました。3〜4歳の子どもは前操作期に入り、ことばやイメージで考え始めますが、その土台には感覚運動期に蓄えた身体的な経験があります。

この研究が示す「身体活動・座位行動・睡眠のバランス」という視点は、ピアジェの理論とも呼応します。十分に身体を動かし、適切に休息をとることが、次の認知的な発達の土台を作るという考え方です。

🔍 ピアジェの発達段階と身体活動の関係

ピアジェは0〜2歳頃を「感覚運動期」、2〜7歳頃を「前操作期」と位置づけました。感覚運動期では、手を伸ばす・つかむ・這うといった身体の動きそのものが認知の中心です。前操作期に移行しても、身体を使った遊びは「ごっこ遊び」や「ルールの理解」など、より抽象的な思考へとつながっていきます。

今回の研究で測定された粗大運動スキル(跳ぶ・ボールを投げる)や微細運動スキル(積み木・描画)は、まさにこの移行期の子どもたちが身体を通じて世界を学んでいる姿を数値化したものといえます。

モンテッソーリの「動きを通じた学び」

マリア・モンテッソーリは「子どもは動くことによって学ぶ」と繰り返し述べました。手指を使う作業、全身を使った活動、そして自由に選んだ活動に集中する時間——これらが調和することで、子どもの内面が整っていくという考え方です。

WHOのガイドラインが「動く・座る・寝る」の24時間のバランスを重視するのは、モンテッソーリが直感的に捉えていた「活動と休息のリズム」を、現代の疫学データで裏づけるものとも読めます。

読後感

「動く・座る・寝る」という、あまりにも当たり前の営み。でも、その当たり前の24時間を丸ごと見つめ直してみると、お子さんの過ごし方に新しい発見があるかもしれません。

昨日のお子さんの1日を思い出してみてください。たくさん走った日でしたか? じっくり何かに集中していた日でしたか? ぐっすり眠れていましたか?——そのひとつひとつの観察が、お子さんの育ちを支える大切なまなざしです。