SNSは家族の絆を本当にむしばむのか――10歳から20歳まで追った大規模研究
📄 Social Media Use and the Quality of Family Relationships: A Six-Wave Longitudinal Study of Within-Family Effects from Age 10 to 20
✍️ Nobakht, H. N., Wichstrøm, L., Steinsbekk, S.
📅 論文公開: 2026年
3つのポイント
- 1
ノルウェーの子ども979人を10歳から20歳まで6回追跡し、SNS利用が親子関係の質を悪化させるかを調べました。
- 2
家庭ごとの違いを考えても、同じ家庭の中の時間的な変化を見ても、SNS利用が親密さ・対立・愛着・家族機能を悪化させる証拠は見つかりませんでした。
- 3
日常的な範囲のSNS利用が家族の絆をむしばむという心配は、必ずしも当たらないかもしれないと示しています。
論文プロフィール
- 著者: Nobakht, H. N. / Wichstrøm, L. / Steinsbekk, S.(2026年)
- 掲載誌: Journal of Youth and Adolescence
- 調査対象: ノルウェー・トロンハイムの2つの出生コホートの子ども979名(女子52.2%)。10歳から20歳まで2年ごと、計6回の調査
- 調査内容: 子どものSNS利用(チェック頻度・活動量・利用時間)と親のSNS利用を測定し、それらが親子の親密さ・対立、 愛着(アタッチメント) アタッチメント(愛着) 乳幼児と養育者の間に形成される情緒的な絆。ボウルビィが提唱し、安定型・不安定型等に分類される。 、家族機能の変化と結びつくかを追跡しました
エディターズ・ノート
「SNSの使いすぎが家族の会話を奪っている」という不安は、いま多くの家庭に共有されています。しかしその不安は、どこまで確かな根拠に支えられているのでしょうか。10年という長い時間をかけて同じ子どもたちを追ったこの研究は、思い込みと事実を丁寧に切り分けるための、貴重な手がかりを与えてくれます。
実験デザイン
この研究の最大の特徴は、10歳から20歳までの同じ子どもたちを2年ごとに6回追った 縦断研究 縦断研究 同一の参加者を長期間にわたって追跡調査する研究デザイン。発達的変化の因果関係を検討できる。 であることです。一時点だけを切り取る調査では見えない「時間の流れ」を捉えられます。
測定は単一の情報源に頼っていません。
- 子どものSNS利用: 面接に加え、客観的な利用時間の指標も使用
- 親のSNS利用: 質問紙でチェック頻度と「問題のある利用」を測定
- 親子関係: 子どもが親密さ・対立を回答
- 愛着: 自己報告に加え、親子のやりとりの観察も併用
- 家族機能: 子どもと親の両方から回答
研究チームは「ランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)」という分析を使いました。これは家庭ごとの安定した違い(もともと仲の良い家庭/SNSをよく使う家庭という個性)と、同じ家庭の中で起きる時間的な変化(ある時期にSNS利用が増えたら、その後で関係が変わるか)を分けて見るための手法です。
結果は明快でした。家庭ごとの違いを見ても、同じ家庭の中の変化を見ても、子どもや親のSNS利用が、その後の親子関係の質・家族機能・愛着の悪化につながるという証拠は見つかりませんでした。
🔍 『家庭の間の違い』と『家庭の中の変化』はなぜ分けるのか
たとえば「SNSをよく使う家庭ほど親子関係が悪い」という相関が見つかったとします。これだけでは、2つの全く違う話が混ざっています。
- 家庭の間の違い(between-family): もともと関係が築きにくい家庭が、たまたまSNSもよく使う、という家庭ごとの個性の違い。
- 家庭の中の変化(within-family): ある子のSNS利用がある時期に増えると、その後その子の家庭の関係が悪化する、という時間的な因果に近い動き。
子育ての実感に響くのは後者です。従来の研究はこの2つを混ぜて報告しがちで、それが「SNSが家族を壊す」という印象を強めてきました。この研究は両者を分け、どちらにも明確な悪影響は見られないと報告しています。
🔍 この研究の限界と読み方
「影響がなかった」という結果は心強い一方、慎重に読む必要があります。
- 特定の地域・文化: ノルウェーの2コホートが対象で、すべての社会にそのまま当てはまるとは限りません。
- 『日常的な範囲』の話: 研究者らは「ノーマティブ(標準的・日常的)な範囲のSNS利用」について述べています。極端な依存的利用までを安全と保証するものではありません。
- 「ない」ことの証明の難しさ: 効果が見つからなかったことは、必ず効果がゼロだと確定させるものではありません。
古典知見との接続
親子の絆を語るうえで欠かせないのが、ボウルビィの 愛着(アタッチメント) アタッチメント(愛着) 乳幼児と養育者の間に形成される情緒的な絆。ボウルビィが提唱し、安定型・不安定型等に分類される。 理論です。子どもは、困ったときに頼れる安全な拠り所(安全基地)として養育者との関係を内面に育てていく――この絆は、子どもの心の安定の土台になります。
SNSへの不安の根っこには、「画面に向かう時間が、この大切な絆を削っているのではないか」という直感があります。しかしこの研究は、観察を含む複数の方法で測った愛着が、SNS利用によって損なわれる証拠を見つけられませんでした。
ここから示唆されるのは、親子の絆はそれほど脆くないのかもしれない、ということです。愛着は日々の積み重ねの中で築かれる、ある程度の安定性を持った関係です。数時間のスクリーン利用という単一の要因だけで揺らぐものとして捉えるより、もっと太く長い時間軸のなかで育まれるものとして見るほうが、実態に近いのかもしれません。
読後感
「SNSが家族の時間を奪っている」と感じるとき、私たちは目の前の画面という、わかりやすい犯人を探しているのかもしれません。けれど絆というものは、もっと太く、もっと長い時間をかけて編まれていくものなのでしょう。
今日、お子さんと過ごした時間のなかで、画面の有無とは関係なく心に残った瞬間は、どんなものでしたか。