子育て論文研究室
教育心理学

友だちと一緒に積み木で遊ぶと、5〜6歳の『学びに向かう力』が育つ

📄 The influence of cooperative constructive play on the approaches to learning in 5-6-year-old children.

✍️ Wang, S., Che, X., Chen, Y., Wei, X., Zou, H., Qian, R., Li, L., Xu, F., Chen, Y.

📅 論文公開: 2026年

遊びと学び 協同遊び 構成遊び 就学前

3つのポイント

  1. 1

    中国・山東省の幼稚園で5〜6歳の子ども60人を対象に、友だちと協力して積み木などを作る遊びを16週間続ける実験を行いました。

  2. 2

    計画する力・創造する力・やり抜く力・振り返る力の4つで、遊びを取り入れたクラスのほうが伸びが大きいという統計的な差が見られました。

  3. 3

    一方で自分から動き出す『主体性』には差が出ず、すべての力が一様に伸びるわけではないことも示されました。

論文プロフィール

  • 著者: Wang, S. ほか(2026年)
  • 掲載誌: Journal of Experimental Child Psychology
  • 調査対象: 中国・山東省の幼稚園に通う5〜6歳の子ども60人(実験クラス30人/統制クラス30人)
  • 調査内容: 友だちと協力しながら積み木などを作る「協同的構成遊び」のプログラムを16週間(全32回・1回30分)実施し、子どもの「学びに向かう力(Approaches to Learning)」がどう変化するかを観察によって測定しました

エディターズ・ノート

「学びに向かう力」とは、何を知っているかという知識そのものではなく、計画を立てたり、粘り強く取り組んだり、振り返ったりする「学ぶときの姿勢」のことです。この研究は、その姿勢が一人で頑張ることよりも、友だちと一緒に何かを作り上げる経験の中で育つ可能性を示しています。遊びと学びを切り分けずに捉える視点を、改めてお届けしたいと考えました。

実験デザイン

この研究は、遊びのプログラムを行う前と後で子どもの様子を測り、プログラムを受けたクラスと受けていないクラスを比べる「事前事後テスト型の準実験デザイン」です。 ランダム化比較試験 のように一人ひとりを無作為に振り分けたのではなく、もともとあるクラス単位で実験クラスと統制クラスに分けている点が特徴です。

プログラムの中身は、社会的構成主義という考え方を土台にしています。

  • 協同: 一人で作るのではなく、友だちと役割を分け合いながら一緒に作ります
  • 構成遊び: 積み木などを組み立てて、何かの形を作り上げていく遊びです
  • 計画・実行・振り返りのサイクル: 「どう作るか考える → 作る → うまくいったか話し合う」を毎回繰り返します

測定したのは「学びに向かう力」を構成する5つの要素です。研究では、観察にもとづく課題型の道具を使って評価しました。

  • 計画する力
  • 創造する力
  • やり抜く力(持続性)
  • 主体性(自分から動き出す力)
  • 振り返る力

反復測定分散分析という手法で「時間(前後)× グループ(実験/統制)」の交互作用を調べたところ、全体の「学びに向かう力」と、計画・創造・持続性・振り返りの4つで、実験クラスのほうが伸びが大きいという統計的に意味のある差が見られました。一方で、主体性には有意な差は見られませんでした。

なお、この研究の要旨では「どの要素で差が出たか(有意かどうか)」は報告されていますが、伸びの大きさそのものを表す数値(効果量や平均点)は公開されていません。そのため、このメディアでは数値グラフは作成していません。

🔍 『準実験』とランダム化の違い

今回の研究は、子ども一人ひとりをくじ引きのように無作為に振り分ける RCT ではなく、もともと存在するクラスごと実験群・統制群に分ける「準実験」です。

  • メリット: 幼稚園の日常を壊さずに、現実に近い形で介入を試せます。
  • 注意点: クラスごとに先生の関わり方や雰囲気がもともと違う可能性があり、その差が結果に混ざりこんでいるかもしれません。

「クラス単位で比べた」という前提を知っておくと、結果を読み解く解像度が上がります。

🔍 この研究の限界

解釈にはいくつか注意が必要です。

  • 少ない人数: 参加したのは2クラス計60人です。別の地域や文化でも同じ結果になるかは、まだ分かりません。
  • 観察による測定: 子どもの力を評価者が観察で測っているため、見る人によって判断が揺れる可能性があります。
  • 短い期間: 16週間という限られた期間での変化であり、その後も力が定着するかは別途確かめる必要があります。

古典知見との接続

「友だちと一緒だと力が伸びる」という今回の結果は、ヴィゴツキーの考え方とよく響き合います。ヴィゴツキーは、子どもは一人でできることよりも少しだけ難しい課題を、大人や仲間の手助けを借りながら乗り越えていくと考えました。この「少しだけ背伸びできる領域」を 発達の最近接領域 と呼びます。

友だちと役割を分け合い、「次はどうする?」と相談しながら積み木を組み立てる経験は、まさにこの仲間との 足場かけ (できそうでできないことを、周りがそっと支えること)が働く場面だと言えます。

一方、積み木を組み立てて形にしていく「構成遊び」そのものは、ピアジェが重視した、子どもが手を動かしながら世界の仕組みを自分で組み立てていく学びの姿とも重なります。今回の研究が、社会的なやりとり(ヴィゴツキー)とモノを操作する経験(ピアジェ)の両方を含んでいる点は、遊びが持つ豊かさを物語っています。

🔍 なぜ『主体性』だけ差が出なかったのか

今回、5つの要素のうち「主体性(自分から動き出す力)」だけは有意な差が見られませんでした。

考えられる理由のひとつは、計画や振り返りが「プログラムの中で繰り返し促される」のに対し、自分から動き出す主体性は、もっと長い時間や、本人が心から夢中になれるテーマと結びついて育つのかもしれない、ということです。

この「伸びる力と伸びにくい力がある」という結果自体が、遊びを一括りにせず、一つひとつの力を丁寧に見ることの大切さを教えてくれます。

読後感

子どもが何かを作り上げる力は、一人きりの集中の中だけでなく、友だちと「ああでもない、こうでもない」と頭を寄せ合う時間の中で育っていくのかもしれません。

今日、お子さんは誰と、どんなふうに遊んでいましたか。その小さなやりとりの中に、どんな工夫や粘りが隠れていたでしょうか。