子育て論文研究室
発達心理学

スクリーン時間と5〜6歳の感情コントロール:親子の関わりが鍵を握る

📄 Screen exposure and emotion regulation abilities in 5-6-year-old children: a moderated mediation model.

✍️ Kang, D., Jiang, G., Xu, X.

📅 論文公開: 2026年

3つのポイント

  1. 1

    5〜6歳ではスクリーンに触れる時間が長いほど、気持ちを切り替える力が弱い傾向がみられました。

  2. 2

    その背景には「考えをコントロールする力」の育ちが部分的に関わっていました。

  3. 3

    ただし親子の関わりが豊かだと、スクリーン時間の影響はぐっと小さくなっていました。

論文プロフィール

  • 著者: Kang, D. / Jiang, G. / Xu, X.
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Frontiers in Psychiatry
  • 調査対象: 中国H省の4つの幼稚園から無作為クラスター抽出された5〜6歳の子ども806名とその保護者
  • 調査内容: 保護者が質問紙に回答し、子どものスクリーン時間・実行機能・感情コントロール・親子の関わりを測定。Mplus を用いて、スクリーン時間と感情コントロールの関係を「実行機能」が媒介し、「親子の関わり」がその関係を調整するモデルを検証

エディターズ・ノート

スクリーンと子どもの育ちをめぐる議論は「良いか悪いか」に偏りがちですが、この研究は「何がその影響を和らげるのか」という、より実りある問いに踏み込んでいます。スクリーンそのものより、子どもを取り巻く関わりの質に目を向ける視点を届けたいと考えました。

実験デザイン

この研究は806名の子どもと保護者を対象にした横断調査です。RCT のような介入はなく、ある一時点で測定したデータから変数同士の関係を統計的に解き明かす手法をとっています。

主な結果は次のとおりです。

  • スクリーン時間が長いほど、子どもの感情コントロール能力は低い傾向がみられた
  • この関係を「考えをコントロールする力( 実行機能 )」が部分的に媒介していた
  • 親子の関わりが豊かな場合、スクリーン時間と実行機能の負の関係は弱まり、スクリーン時間から感情コントロールへの直接的な関係は統計的に有意でなくなった

つまり、スクリーン時間の影響は一律ではなく、家庭での関わりの厚みによって大きく変わりうる、という構図です。

親子の関わりがスクリーン時間の影響を和らげる関係(概念図) 0 15 31 46 62 77 感情コントロールの育ち スクリーン時間の長さ(小→大) 親子の関わりが豊か: 70 (スクリーン時間の長さ(小→大)=1) 親子の関わりが豊か: 66 (スクリーン時間の長さ(小→大)=2) 親子の関わりが豊か: 62 (スクリーン時間の長さ(小→大)=3) 親子の関わりが薄い: 68 (スクリーン時間の長さ(小→大)=1) 親子の関わりが薄い: 54 (スクリーン時間の長さ(小→大)=2) 親子の関わりが薄い: 40 (スクリーン時間の長さ(小→大)=3) 親子の関わりが豊か 親子の関わりが薄い
親子の関わりがスクリーン時間の影響を和らげる関係(概念図)
系列 スクリーン時間の長さ(小→大) 感情コントロールの育ち
親子の関わりが豊か 1 70
親子の関わりが豊か 2 66
親子の関わりが豊か 3 62
親子の関わりが薄い 1 68
親子の関わりが薄い 2 54
親子の関わりが薄い 3 40
親子の関わりがスクリーン時間の影響を和らげる関係(概念図)
🔍 「部分的に媒介」とはどういう意味?

媒介とは、AとCの関係のあいだにBが橋渡しとして入ることです。

この研究では「スクリーン時間(A)→ 実行機能(B)→ 感情コントロール(C)」という経路が見つかりました。「部分的に」というのは、Bを経由する道だけでなく、AからCへ直接つながる道も残っていた、という意味です。

ただし親子の関わりが豊かだと、この直接の道は有意でなくなりました。関わりの質が、影響の経路そのものを変えうることを示しています。

🔍 この研究を読むときの注意点
  • 横断調査である: ある一時点の測定なので、「スクリーンが原因で感情コントロールが下がった」という因果の向きまでは断定できません。逆の可能性や、別の要因が両方に影響している可能性も残ります。
  • 保護者の自己報告: スクリーン時間も子どもの様子も保護者が回答しています。実際の行動観察ではないため、回答のクセが結果に混じる可能性があります。
  • 特定地域のサンプル: 中国H省の幼稚園が対象です。文化や生活環境が異なる家庭にそのまま当てはまるとは限りません。

古典知見との接続

「親子の関わりが影響を和らげる」という結果は、ヴィゴツキーの考え方とよく響き合います。彼は、子どもが一人ではまだ難しいことも、身近な大人の支えがあればできるようになる「のびしろの幅」に注目しました。これを 発達の最近接領域 と呼びます。

気持ちを切り替える力も、最初から一人でできるわけではありません。「悔しかったね」「次はこうしてみようか」と隣で言葉を添える関わり( 足場かけ )が、子どもが自分で感情を扱う力を育てる土台になります。スクリーンの影響を関わりが和らげていたという本研究の結果は、この「支えあっての育ち」という視点を裏づけるものと読めます。

読後感

スクリーンの時間そのものより、その前後にある一言や、横にいる誰かの存在が、子どもの育ちを静かに支えているのかもしれません。

今日、お子さんが何かを見終わったあと、どんな表情をしていましたか。そのとき、どんな言葉をかけたくなりましたか。