子育て論文研究室
発達心理学

心の落ち込みとSNSの使いすぎ — 互いに影響し合う関係と、間をつなぐ「切り替える力」

📄 The Bidirectional Relationship Between Internalizing Problems and Problematic Social Media Use Among Adolescents and Young Adults: Longitudinal Mediation of Different Executive Function Subcomponents.

✍️ Xu, W, Shen, X, Wang, JL

📅 論文公開: 2026年1月

この研究がおしえてくれること 元論文を見る

心の落ち込みとSNSの使いすぎは、互いを強め合う関係にありました

  1. 1 不安や気分の落ち込みと、使いすぎは互いに影響し合っていました
  2. 2 気持ちを切り替える力の弱まりが、間をつなぐ役割をしていました
  3. 3 強さは控えめで、原因を決めつけるものではありません
研究で見えた効果の大きさ
小さい 中くらい 大きい
研究のかたち 縦断研究
規模 806名の若者
確からしさ まずまず

論文プロフィール

  • 著者 / 発表年 / 掲載誌: Xu, W. ほか(2026年)/Journal of Adolescence
  • 調査対象: 青年・若年成人806名。1年間にわたり3回(T1・T2・T3)の追跡調査を実施
  • 調査内容: 「不安・気分の落ち込み」といった内面にたまる悩み(内在化問題)と、生活に支障が出るほどのソーシャルメディア使用(問題的ソーシャルメディア使用=PSMU)が、どちらからどちらへ影響するのかを縦断的に調べました。あわせて、実行機能の3つのはたらき(衝動をこらえる力・気持ちを切り替える力・情報を一時的に覚えておく力)が、その間をどうつないでいるかを検討しています

エディターズ・ノート

「心が落ち込んでいるからSNSを使いすぎるのか、それとも使いすぎるから落ち込むのか」——この問いは、これまでどちらが先かはっきりしないままでした。この研究は1年間の追跡で、その関係が一方通行ではなく双方向であること、そして「気持ちを切り替える力」のような心のはたらきが橋渡しをしている可能性を、丁寧にたどろうとしています。青年期の心とデジタルとの付き合い方を、責めずに理解するための一本としてお届けします。

実験デザイン

この研究では、806名の若者に対して1年間で3回の調査を行い、その時々の「不安・気分の落ち込み」「ソーシャルメディアの使い方」「実行機能のはたらき」を測定しました。同じ人を時間をあけて繰り返し測ることで、どの状態が後の状態を予測するのか、順序を追いかけられるのが 縦断研究 の強みです。

結果として、まず早い時期には不安と使いすぎが互いに予測し合い、後の時期には気分の落ち込みと使いすぎが互いを高め合う、という双方向の関係が見られました。さらに媒介分析では、とっさの衝動をこらえる力(抑制制御)と気持ちを切り替える力(認知の柔軟性)の弱まりが心の落ち込みと使いすぎの間をつなぐ役割をしていた一方で、情報を一時的に覚えておく力(ワーキングメモリ)にはその役割が見られなかったと報告されています。

🔍 実行機能の3つのはたらきって?

実行機能 は、目標に向けて自分をうまく舵取りするための心のはたらきです。この研究では、そのなかの3つに注目しました。

  • 抑制制御: 「あと少しだけ」と思わずスクロールしたくなる衝動を、ぐっとこらえる力です。
  • 認知の柔軟性: 「そろそろやめて次のことをしよう」と、頭をスッと切り替える力です。
  • ワーキングメモリ: いま必要な情報を、頭のメモ帳に一時的にとどめておく力です。

今回、間をつなぐ役割が見られたのは前の2つで、ワーキングメモリでははっきりした役割が見られませんでした。同じ「実行機能」でも、はたらきごとに関わり方が違うのかもしれません。

🔍 この研究の読み方(限界)
  • 参加したのは青年・若年成人が中心で、幼い子どもは対象ではありません。ここで見えたことが、そのまま小さなお子さんに当てはまるとは限りません。
  • 調査はすべて本人の自己申告にもとづくため、実際の使用時間や気持ちとのずれが含まれる可能性があります。
  • 双方向の関連は見えたものの、関連の強さは全体として控えめです。「使いすぎれば必ず落ち込む」「落ち込めば必ず使いすぎる」という決まった因果ではありません。

古典知見との接続

エリクソンは、青年期を「自分は何者か」を探し、揺れながら形づくっていく大切な時期として描きました。この時期は、衝動をこらえたり気持ちを切り替えたりする力——自分を舵取りする力——もまた、大きく育っていく途中にあります。

今回の研究が示すのは、心の落ち込みと使いすぎが互いを高め合うとき、その間で 実行機能 という「舵取りの力」がそっと関わっているらしい、ということでした。心の揺れは、力が育つ途中だからこそ起きる——そう捉えると、使いすぎは意志の弱さの問題というより、育ちの途中にある舵取りを、まわりがどう支えられるかという問いに見えてきます。

読後感

心が沈むとつい画面に手が伸び、画面に沈むとまた心が重くなる——その行き来は、大人にも子どもにも覚えのある揺れかもしれません。大切なのは、どちらかを犯人にすることではなく、揺れそのものにそっと気づくことなのでしょう。

今日、お子さんが画面から顔を上げたとき、その表情にはどんな気持ちがのぞいていましたか。